「人間は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと愛したことを思い出すヒトとにわかれる。私はきっと愛したことを思い出す」。“好青年”とよばれる豊は結婚を控えるなか、謎の美女・沓子と出会う。そこから始まる激しくくるおしい性愛の日々。二人は別れを選択するが二十五年後の再会で…。愛に生きるすべての人に捧げる渾身の長編小説。
評価:★★★★★
映画上映が近くなり、あらためて再読した。これまで読んだすべての小説の中でトップ3に入る名作だと断言できる。初めて読んだのは2002年。その頃、僕にはいろいろな事がありすぎて感情というものの振り幅がとても大きくなっていた。喜びも悲しみも言い尽くせぬほど味わった。そんな時に読んだ作品だからひどく心に残ったのかもしれない。とにかく、のめりこんだ。本を読みながら号泣したのは初めてだった。多少涙ぐむことはあっても声をあげて泣くようなことは読書では皆無だった。それだけの力がこの作品にはある。
それから8年が過ぎようとしているが、今でも物語の世界に何かを求めたいときや涙を流したいときは本作のページをめくる。作者本人にとっても思い入れの強い作品であることは間違いなく、真中沓子は中山美穂をおいて演じるものはいないとさえ感じる。(映画は見に行くのでそのレビューはあらためて)
豊は人生を見誤らない。同じ男として納得できるし、もし自分が同じ立場に置かれたとしてもやはり彼と同じ選択をしただろう。いや、そうせざるを得ないのだ。女性から見ればなんと自分勝手なことか、と軽蔑されるかもしれないが選べない相手というのは存在する。どちらかを選ばなければならないとすれば、冗談ではなく運命を呪うしかない。豊の苦悩はようやく彼の年齢に追いついた僕にも痛いほどわかる。第一部のクライマックスの美しさは憔悴した愛の果ての姿にあるのだ。
僕もまた同じことを言う。死ぬときにはきっと、たった一人のヒトを愛したことを思い出す。例え、どんなに苦しく悲しい別れがあったとしても。
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