日本人の90%が病院で死ぬ。年間24万人がガンによる死である。なのに、末期医療のなんと粗末なことか。これが“日本で死ぬということ”なのか!?―医師のこの痛切な反省が、日本にホスピスの理念をもたらした。これは、本当に人間らしく死を迎えるにはどうしたらいいかを考えつめた医師の愛と願望の書。
評価:★★★★★
前作でホスピスの存在について言及しいた著者は本作では現実にホスピスで勤務している。前作であった現代医療の問題点とも言える「病院で死ぬということ」についてのやりきれなさは本作ではない。ホスピスという人生の幕を自らの手で降ろそうと決めた人たちの姿が切なくも清々しい。
「真昼の月」は優しさに溢れている。人柄ということもあるだろうが、人生の中でどれだけ素敵な仲間に出会えるかということはとても大切な事であることを教えてくれる。愛すべき家族や友に看取られるというのはきっと幸せに違いない。
本作で心を打ったのは夫婦の絆である。
「ゆだねられし命」で妻を抱えるために体を鍛えた夫のように、「母親の存在」で妻の思いを遂げるために懸命になった夫のように、愛する人が亡くなるその瞬間まで、相手のことを大切に思い続けられたらどれほどいいだろう。
僕はずっと思っていることがある。本当に心から愛する人がこの世から去ったとしたら、僕はきっと狂うだろうと。自分がその悲しみに耐えられる自信がなければ、その事実を受け止める事もできないのではないだろうかと。しかし、自らも結婚し、家族をもち、その考えは徐々に変化していった。確かにすぐには現実を受け止められないかもしれないが、人間にはそれを乗り越える力があるのだ。自分にもきっとその力は備わっている。妻も、子どもたちも。だから今はこう思う。家族が自分より先に逝くことがあっても、自らが家族を残していくことになったとしても、その最後の最後まで夫婦は夫婦であり、家族は家族であるのだ。かけがえのない深い深い愛情はきっと死をやさしくする。僕はそれを信じている。
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