東京裁判で絞首刑を宣告された7人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外相広田弘毅。戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちと共に処刑されるという運命に直面させられた広田。そしてそれを従容として受け入れ一切の弁解をしなかった広田の生涯を、激動の昭和史と重ねながら抑制した筆致で克明にたどる。毎日出版文化賞・吉川英治文学賞受賞。
評価:★★★★☆
外交官としてキャリアを積み、外務大臣、総理大臣と歴任し、
戦争の渦中において戦争の防止に努力し続けたにもかかわらず
東京裁判で処刑された廣田弘毅。
本作はその伝記小説である。
まず歴史と言う事実がある。その事実にいたる背景がある。
歴史は常に未来にしか評価されない。
私たちが過去や歴史を可能な限り正しく評価するためには
多くの資料と当時の状況を鑑み「当時の視点」で考えなければならない。
本作を読む限り、廣田は今現在の我々が知る日本の戦争を回避しようとした。
その努力や使命感には深く感動を覚える。
日本人は本来このように思慮深く、温情があり、「自ら計らわぬ」生き方をしていた。
それは美学である。公人として生きるということに強い意義を持っていた廣田。
東京裁判において戦犯からもっとも遠い存在にあったはずの廣田は
「自ら計らわぬ」生き方を突き通し、自らの弁護を一切しなかった。
尋常な精神力ではない。そして、その覚悟を強く受け止めた妻、静子。
僕は日本人が最も美しい信念を持っていたのは大正時代だと思っている。
自分の祖父母は生き方や物事の捉え方には深い潔さがある。
日本という国において戦争は不幸だった。
しかし人々のすべてが狂っていたわけではない。
『落日燃ゆ』は真摯な日本人のあるべき姿を廣田弘毅を通じて感じさせてくれる。
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