渡辺淳一が若き日に出会った夭折の美人画家との恋愛体験を基に描く悲恋話 汚れながらも純潔を守り、18歳で夭折した、天才美少女画家・時任純子。彼女への思いを後悔の念とともに綴る、自伝的要素の濃い青春小説。評価:★★★★☆
死を見つめる人間を描いたのが『魂の切影』であるならば、
本作は残された者たちの情念の物語である。
雪の阿寒湖近くで自殺を遂げた“天才少女画家”時任純子。
純子を愛した五人の男たちと姉。蘭子の回想。
渡辺淳一氏の実体験に基づいた小説らしく、取材を重ねながら
純子の本当の人間像を描き出そうとする姿は
前述の『魂の切影』の森村氏と通ずるものがある。
ここに登場するすべての男たちは純子に翻弄されるが
誰一人として純子の存在を精一杯受け止めることができなかった。
いや、純子は純子自身でさえ自らの存在を受け止められなかったのだろう。
多くの天才がそうであったように純子もまた苦しむ。
言いようのない、迫り来るものと対峙し、もがき続ける。
純子にとって死は常にそこにあった。
そして生きることに何らかの道を見出そうとしていた。
それを探し当てられないことが純子にとってどれほど壮絶であったかは、はかり知れない。
多くの人が理解できない、そして理解しようとする人に近づいてはいくが
最後まで立ち入らせようとはしない。
わがままで自分勝手のように見えるかもしれないが、
純子はきっとそのようにしか生きることができなかったのだろう。
芸術家の真髄なる姿を作品を通して久々に感じた。
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