南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
評価:★★★★☆
長い物語が読みたかった。できる限り野望に満ちた物語が読みたかった。
そこで手に取ったのが本作である。
ナビダート第4代大統領であるマシアス・ギリは独裁とは言わずとも
国政におけるほぼ全ての実験を握っている。
政治小説ともいえるマシアス・ギリの日常は非常に興味深い。
国の利益はもちろん、個人の利益も得る術も心得ている。
(これらは日本滞在時に叩き込まれたものではあるが)
その大統領を中心に描かれる人物がそれぞれとても魅力がある。
愛人であり娼館のオーナーであるアンジェリーナ、
大統領と密約を交わしていたケッチとヨール、
心の友と呼んでもいい亡霊のリー・ボー。
この三者は物語の極めて重要な部分を握っており、
またマシアス・ギリを語る上でも避けて通れない登場人物である。
大統領が一市民として参加するユーカ・ユーマイの下りは
非常にダイナミックかつエネルギッシュであり、
読みながらその情景が見えるようであった。
タイトルどおり、最後にマシアス・ギリは失脚する。
このあたりも日本の政治家に通じるものがある。
利権なのか、名誉なのか、政治という魔物なのか。
何かがマシアスを狂わせ、何かが彼を突き動かした。
池澤夏樹自身は、本作についてこう語っている。
「読んでも読んでも読み終らないような長い物語を書きたかった」
確かに長い物語である。
ただ長いだけではなく、大小さまざまな出来事があり、思惑があり、人間がいる。
読み応えがあり、読後には大きな満足を得られた作品である。
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