大手広告代理店を辞め、「珠川食品」に再就職した佐倉凉平。入社早々、販売会議でトラブルを起こし、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ異動となった。クレーム処理に奔走する凉平。実は、プライベートでも半年前に女に逃げられていた。ハードな日々を生きる彼の奮闘を、神様は見てくれているやいなや…。サラリーマンに元気をくれる傑作長編小説。
評価:★★★★☆
お客様相談室の仕事はつらい。
僕は新人の頃、キャンペーン事務局やとあるブランド商品のお客様相談室の
オペレーション業務に携わったことがあるので、この小説の舞台はよく理解できる。
「お客様の声は、神様のひと声」、珠川食品の社訓であるこのフレーズは
真実ではあるが、そうではないこともしばしばある。
個人的な過失や失敗が原因で話をするわけではないだけに、
お客様相談室の仕事は並大抵の神経で到底勤まらない。
そして悪意のあるクレームや恐喝の類であれば話は長くなるのだ。
チンピラがキャンペーンの誤植を逆手にとってユスリをかけてくるシーン。
上司・篠崎は訪問ではなく、会社へ来てもらうことで事を有利に運ぼうと画策する。
その手法は鮮やかであるし、神経の図太さがモノを言う方法である。
読んでいる者としては緊張感を感じながらも痛快さを楽しめる場面だった。
余談ではあるが、僕もユスリの体験を受けたことがある。
中年女性であったことから、一人で訪問謝罪に訪問し軟禁された。
僕では金にならんと踏んだのだろう。その場で上司に電話させられた。
隠語のやり取りで上司に状況を伝え、助けを求める。
できる限りの金額で手を売ってもらい、解放されたのだが
このときの体験を考えると今の仕事のピンチなんてどうってことはない。
作者も書いているが、会社や仕事なんかのために死ぬな。
死ぬほどつらいのは、生きている証拠。そうだ苦しいときは永遠には続かない。
もちろん本当に命が懸かってしまうことや経済的な困窮に見舞われることは
絶対にないとはいえない。でも、日本という社会に生きている以上
取り立てて無理をしなくても、少しだけ頑張ってい続ければ
小さないいことだってたくさんあるし、自分も成長していける。
主人公・涼平は僕らのような中途半端な若者の象徴である。
プライドだけが高く、ピンチに弱く、自分の能力を過信する。
僕は自分の半端さ加減を自覚することができた幸運な一人である。
そう、半端者であることを自覚できないことの不幸は
人生の大きな損失である。
サラリーマンの悲哀と成長を感じるために
そして自分の姿を投影させて大切なものへ向き合うために
きっかけをくれる一冊である。
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