僕は辻仁成の性格や考え方が極めて近いと思う。
『サヨナライツカ』でそれを確信した。
本を読みながら号泣したのはこれが初めてだった。
さて本作。書下ろしである。
タイトルで惹きつけられて購入した。
いや、この本が僕を読んでいたような気さえする。
前半、亡くなった恋人の影と共存しながら戸田さんと栞は
2人の時間を紡いでいこうと努力する。
それだけですでに心は苦しくなってくる。
過去の相手が存在しない以上、向き合うことはできない。
ましてや親友であったとすれば自分との思い出の中にも
その人物は深い影響を与えている。
そして2人は2人でいることに疲れ果ててしまう。
そこで登場した安東君が交錯する想いをより哀しくする。
思い出とともに生きていた男と思い出を忘れさせるために生きたい男。
戸田さんが上海に来るシーンで僕は泣いた。
そして三部の福岡でも悲しみに苦しくなった。
僕には戸田さんの気持ちも安東君の気持ちも
痛いほどによくわかる。その両者の間で
揺れなければならない栞の心も理解できる。
登場人物は皆、心が繊細である。
だからこそ必要以上に誰かを傷つけてしまう。
誰かの気持ちには感情移入できる。
誰の気持ちになったとしても胸が締め付けれらる。
辻作品の中では文章に稚拙な印象を受けるが
登場人物の心の動きが鮮やかに描写されており
惹きつけられて読み進むことができる。
大きな恋愛を経た二十代後半以降の方に
真に迫るものがあるのではないだろうか。
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