草原の椅子 上巻 (1) (新潮文庫 み 12-15) 宮本 輝
離婚して娘と暮らす遠間憲太郎は、陶芸店を経営する篠原貴志子に少年のような恋をした。女は狼だという富樫重蔵とは、ともに五十歳で親友の契りを結んでいる。ある日、憲太郎は、母親から虐待を受け、心身ともに未発達の幼児、圭輔を預かることになった。憲太郎と富樫は、萎縮した圭輔の心に生きる強さを懸命に吹き込むが・・・。人生の困難、生の荘厳を描く、心震える感動の雄編前編。
評価:★★★★★
「人情のかけらもないものは、どんなに理屈が通ってても正義やおまへん」
物語の序盤に憲太郎が富樫重蔵の言葉を思い出すシーンがある。
孔子の言葉を富樫が自分の言葉として咀嚼した名言である。
私たちは生きていくうえで理屈ではわかっていても
納得のいかない出来事にいくつも直面する。
そこにほんのわずかでも人の情が垣間見れたのであれば
私たちはその納得のいかない出来事に対して少しは心を許すことができる。
人間の機微がわかるほど自分はまだ年齢を重ねてはいない。
だからこそ憲太郎や重蔵のように、人の痛みを分かち合える
そうして自分の気持ちや欲望を抑制できる、いや抑制ではなく
品のある大人として自分を律することができる男になりたいと感じた。
何のために働くのか、などと考えるのは青臭いのか。
自分を大切にし、家族を大切にすることで仕事を大切にする。
そして自分に与えられた人生の使命を遂げていくのだ。
壮大なテーマなようであるが、一人一人の人生を
もっともっと真剣に向き合おうと考えさせてくれる物語。
10年後、20年後、また違った気持ちで読み返すことができる作品である。
宮本輝作品の王道ではある。だからこそ★満点。
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